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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)42号 判決

宮城県名取市植松4丁目9番31号の4

原告

星文男

同訴訟代理人弁護士

宇井正一

同弁理士

戸田利雄

東京都品川区大崎1丁目5番8号

被告

調和工業株式会社

同代表者代表取締役

勝部淳一

大阪府大阪市東成区神路4丁目11番5号

被告

日本ニューマチック工業株式会社

同代表者代表取締役

小刀禰栄松

被告両名訴訟代理人

弁理士

秋本正実

主文

特許庁が平成1年審判第9487号事件について平成4年1月16日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第1  当事者が求めた裁判

1  原告

主文と同旨の判決

2  被告ら

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「自走式杭打機」とする考案(以下「本件考案」という。)に係る登録第1687158号実用新案(昭和58年4月26日実用新案登録出願、昭和62年7月7日設定登録)(以下「本件実用新案」という。)の実用新案権者であるところ、平成1年5月23日、被告らは、原告を被請求人として、本件実用新案登録を無効とすることについて審判を請求し、特許庁に、同請求を平成1年審判9487号事件として審理した結果、平成4年1月16日、「登録第1687158号実用新案の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決(以下「本件無効審決」という。)をし、その謄本は、同年2月10日、原告に送達された。

2  本件無効審決の理由の要点

(1)  本件考案の要旨は、明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりの下記のものと認める。

「左右にそれぞれ走行手段を有し上部には回転可能な旋回部を有する自走車体と、該旋回部に俯仰可能に枢着されたブームと、該ブームの先端に俯仰可能に枢着されたアームと、該アームの先端に取り付けられた杭把持用チャック及び起振機と、を具備し、かつこれらの走行手段、旋回部、ブーム、アーム及び起振機はいずれも互いに独立した第1又は第2の油圧供給機構から供給される圧油で駆動される自走式杭打機において、前記起振機は第1及び第2双方の油圧供給機構から同時に圧油を供給可能とされていることを特徴とする自走式杭打機。」

(2)  引用例の記載

実願昭55-40912号(実開昭56-142979号公報)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(昭和56年特許庁発行)(以下「引用例」という。)には、添付された図面とともに、特に下記の記載、すなわち、

「本考案は、油圧ショベルに装着し、油圧ショベルの油圧ポンプで加圧された作動油で、油圧ブレーカのアクチュエータを作動させる型式の油圧ブレーカに関するものである。従来の油圧ショベルに装着した油圧ブレーカは油圧ポンプからの作動油を全量油圧ブレーカのアクチュエータに供給していたために、油圧ブレーカ作動時には油圧ショベルのアーム、ブーム、クローラなどを作動させることができなかった。」(2頁3行ないし11行)、「本考案はこの従来の油圧ブレーカの欠点を改良して、油圧ブレーカを作動したままで油圧ショベルのアーム、ブーム、クローラなどを移動できるようにし、連続的に破壊作業を行えるようにしたもの」(3頁4行ないし8行)であり、「(1)、(2)は油圧ショベルのエンジン(図示せず)により駆動される油圧ポンプであり、タンク(3)からの作動油を加圧するものである。(A)は切り替え弁Aであり、キャビンのレバー(図示せず)を操作することによって、油圧ブレーカ(4)を作動させる。」(3頁15行ないし20行)、「(B)は切り替え弁Bであり、キャビンのレバーを操作することによって切り替わり、油圧ショベルの右側クローラ走行、旋回、アームの作動、ブームの作動などを行わせる。(C)は切り替え弁Cであり、同様に左側クローラ走行、バケットの作動、アームの作動、ブームの作動などを行わせる。」(4頁3行ないし9行)、「切り替え弁Aが図示の位置の時は油圧ポンプ(1)、(2)で加圧された作動油は切り替え弁Aを通って切り替え弁B、Cに至り、キャビンのレバー操作によって、油圧ショベルのアーム、ブームなどを作動させて、油圧ブレーカ(4)は作動しない。切り替え弁Aを切り替えて油圧ブレーカ(4)を作動させる時は、油圧ポンプ(1)、(2)で加圧された作動油の多くは油圧ブレーカ(4)に供給され残り少量は油量調整弁(5)、(6)を通って切り替え弁B、Cに供給されている。キャビンのレバー操作をすると、アーム、ブームなどが作動し、常に油圧ブレーカ(4)を最適位置に移動させることができる。ブレーカ作動時には、アーム、ブームなどを急速に移動する必要はないので、本考案のように油圧ポンプで加圧された作動油の1部を供給するだけで十分である。本考案の最も簡単な実施方法は、第2図の油量調整弁(6)を設けないで、1個の油量調整弁(5)だけにし、その油量調整弁(5)を固定絞りであるオリフィスやノズルなどにすることにより、ブレーカ作業時にアームや、ブームなどを同時に作動させる装置を非常に低コストで得ることができる。また、第2図のように油量調整弁を2個設け、かつ該油量調整弁(5)、(6)を前記の固定絞りにすることもできる。ただし、この場合、装置は低コストでできるという長所を有する反面、アーム、ブーム、クローラなどを急速に移動させるために、これらの駆動ラインに作動油を多く消費したときはライン(7)、(8)の油圧が低下し、油圧ブレーカ(4)の能力が低下してしまうことがある。」(5頁4行ないし6頁16行)、の各記載があり、引用例の基となる実用新案登録出願の出願時点の従来技術として、油圧ショベルの左右にそれぞれクローラ走行手段を設け、上部には回転可能な旋回部を有する自走車体と、該旋回部に俯仰可能に枢着されたブームと、該ブームの先端に俯仰可能に枢着されたアームと、該アームの先端に油圧ショベル部を具備させることが周知であることを併せて判断すれば、引用例には実質的に下記の考案が記載されている。

左右にそれぞれクローラ走行手段を有し上部には回転可能な旋回部を有する自走車体と、該旋回部に俯仰可能に枢着されたブームと、該ブームの先端に俯仰可能に枢着されたアームと、該アームの先端に取り付けられた油圧ブレーカ4と、を具備し、かつこれらのクローラ走行手段、旋回部、ブーム、アーム及び油圧ブレーカ4はいずれも互いに独立した第1又は第2の油圧ポンプ1、2から供給される圧油で駆動される自走式油圧ブレーカ4において、前記油圧ブレーカ4は第1及び第2双方の油圧ポンプ1、2から同時に圧油を供給可能とされていることを特徴とする自走式油圧ブレーカ。

(3)  本件考案と引用例記載の考案との対比

〈1〉 引用例記載の考案の「油圧ポンプ1、2」は、本件考案の「油圧供給機構」に相当するから、結局両者は下記の点で一致する。

左右にそれぞれ走行手段を有し上部には回転可能な旋回部を有する自走車体と、該旋回部に俯仰可能に枢着されたブームと、該ブームの先端に俯仰可能に枢着されたアームと、該アームの先端に取り付けられた作業装置と、を具備し、かつこれらの走行手段、旋回部、ブーム、アーム及び作業装置はいずれも互いに独立した第1又は第2の油圧供給装置から供給される圧油で駆動される自走式作業機において、前記作業装置は第1及び第2双方の油圧供給機構から同時に圧油を供給可能とされていることを特徴とする自走式作業機。

〈2〉 両者は、下記の点で相違する。

A 作業装置として、本件考案は杭打機であるのに対し、引用例記載の考案は「油圧ブレーカ」である点。

B 本件考案は、「杭把持用チャック及び起振機」を構成要件としているのに対し、引用例記載の考案には、対応する構成を具備していない点。

C 圧油による作動回路中、引用例記載の考案は油量調整弁を介在させているのに対し、本件考案には、対応する構成が明示されていない点。

(4)  相違点についての検討

〈1〉 相違点Aについて

振動作動による杭打機とブレーカとは、建設土木機械という共通の技術分野に属するばかりでなく、ブレーカの駆動装置を杭打機の駆動装置として転用すること、あるいはブレーカの駆動装置又は杭打機の駆動装置に油圧による作動装置の技術を共通的に適用することが本件考案の出願前に周知である(必要であれば、特開昭47-23961号公報、特開昭50-20509号公報、特開昭52-57577号公報、実願昭55-42940号((実開昭56-144144号))の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム参照)ことから、油圧ブレーカの作動回路を杭打機の作動回路として転用することは当業者であればきわめて容易になしうる程度の事項である。また、上記転用によって生ずる効果も当業者であれば容易に予測できる程度のものである。

〈2〉 相違点Bについて

杭打作動部を「杭把持用チャック及び起振機」により構成することは本件考案出願前慣用の技術であるから、この点は「油圧ブレーカ」を「杭打機」に転用するに当たって当業者が上記慣用の技術を適用することにより当然行なうべき設計上の事項である。

〈3〉 相違点Cについて

一般に、油圧ショベルカー等の建設土木機械の油圧回路において、各作動部の負荷に応じてアクチュエーターへの管路に必要に応じて油量調整弁を介在させることは本件考案出願前慣用の技術であるから、本件考案に油量調整弁の明示がないということでもって、格別の相違があるとはいえない。

そして、本件考案の要旨とする構成によってもたらされる効果も、引用例記載の考案及び前記周知・慣用の技術がそれぞれ有する効果から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

(5)  以上のとおりであるから、本件考案は、引用例記載の考案、及び本件考案の出願前周知・慣用の技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであると認められるから、本件考案は、実用新案法3条2項の規定に違反して登録されたものであり、同法37条1項1号の規定によって、その実用新案登録を無効とすべきものである。

3  訂正明細書の実用新案登録請求の範囲の項の記載

左右にそれぞれ走行手段を有し上部には回転可能な旋回部を有する自走車体と、該旋回部に俯仰可能に枢着されたブームと、該ブームの先端に俯仰可能に枢着されたアームと、該アームの先端に取り付けられた杭把持用チャック及び起振機と、を具備し、かつこれらの走行手段、旋回部、ブーム、アーム及び起振機はいずれも互いに独立した、それぞれの油圧発生装置とその下流の制御装置との1対から成る、第1及び第2の油圧供給機構から供給される圧油で駆動される自走式杭打機において、第1及び第2の油圧供給機構のそれぞれの制御装置から導出された圧油が起振機に合流供給可能とされていることを特徴とする自走式杭打機。

4  審決を取り消すべき理由

原告は、平成6年5月24日、本件実用新案の明細書の訂正をすることについて審判の請求をなし、特許庁は、同請求を平成6年審判第8660号事件として審理した結果、同年7月28日、本件実用新案の明細書を審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める旨の訂正審決(その理由は別紙1の理由欄記載のとおり。以下「本件訂正審決」という。)(以下、上記審決により認められた訂正を「本件訂正」という。)をなし、同年9月14日、本件訂正審決は、その謄本が原告に送達されて確定した。これによって、本件考案は、実用新案法41条(平成5年法律26号による改正前のもの。)で準用される特許法128条の規定により出願当初から本件訂正後の実用新案登録請求の範囲の項の記載のものとみなされるから、本件訂正前の実用新案登録請求の範囲の項の記載に基づいて本件考案の要旨を認定したうえで、本件実用新案登録を無効とした本件無効審決は、結果的に本件考案の要旨認定を誤ったことになり、かかる誤認は結論に影響を及ぼすことは明らかであるので、違法として取り消されるべきである。

第3  請求の原因の認否

請求の原因1ないし3は認め、同4のうち、原告が、平成6年5月24日、本件実用新案の明細書の訂正をすることについて審判の請求をなし、特許庁は、同請求を平成6年審判第8660号事件として審理した結果、同年7月28日、本件実用新案の明細書を審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める旨の訂正審決(別紙1のとおり)をなし、同年9月14日、本件訂正審決はその謄本が原告に送達されて確定したことは認め、その余の主張は争う。

第4  証拠関係

証拠関係は本件記録中の書証目録の記載を引用する(書証の成立についてはいずれも当事者間に争いがない。)。

理由

1  請求の原因1ないし3(特許庁における手続の経緯、本件無効審決の理由の要点、訂正明細書の実用新案登録請求の範囲の項の記載)並びに別紙1のとおりの本件訂正審決が平成6年9月14日に確定したことは、当事者間に争いがない。

2  甲第1号証(平成1年審判9487号審決書)及び同第6号証(本件考案に係る実用新案出願公告公報)によれば、審決は、本件訂正前の本件考案の明細書の実用新案登録請求の範囲の項の記載に基づいて、本件考案の要旨を認定したものと認められる。しかるところ、本件訂正審決が確定したのであるから、実用新案法41条(平成5年法律26号による改正前のもの。)で準用される特許法128条の規定により、本件訂正後における明細書により、本件実用新案権の設定の登録がなされたものとみなされるから、本件訂正前の明細書における実用新案登録請求の範囲の項の記載に基づいて本件考案の要旨を認定した審決は結果的に要旨の認定を誤ったことになる。

しかして、前記のとおりの本件無効審決の理由の要点から明らかなごとく、本件無効審決は、本件訂正前の明細書の実用新案登録請求の範囲の項における「第1又は第2の油圧供給機構から供給される圧油で駆動される自走式杭打機において、前記起振機は第1及び第2双方の油圧供給機構から同時に圧油を供給可能」の記載を前提として、引用例を適用してその進歩性を否定し、本件実用新案の登録を無効としたものであるところ、本件訂正審決の確定により、別紙1に記載されたとおり、これが「、それぞれ油圧発生装置とその下流の制御装置との1対から成る、第1及び第2の油圧供給機構から供給される圧油で駆動される自走式杭打機において、第1及び第2の油圧供給機構のそれぞれの制御装置から導出された圧油が起振機に合流供給可能」に訂正され、もって、自走式杭打機における上記第1及び第2双方の油圧供給機構から起振機への圧油の合流点をそれぞれの制御装置の下流に限定し、実用新案登録請求の範囲を減縮したものと認められるから、審決の本件考案の要旨の認定の誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

したがって、審決は違法として取消しを免れない。

3  以上のとおりであって、審決の取消し求める原告の本訴請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、93条1項本文を各適用して、主文のとおり、判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

平成6年審判第8660号

審決

宮城県名取市植松4丁目9番31号の4

請求人 星文男

東京都港区虎ノ門一丁目8-10 静光虎ノ門ビル 青木内外特許事務所

代理人弁理士 石田敬

東京都港区虎ノ門1丁目8番10号 静光虎ノ門ビル 青和特許法律事務所

代理人弁理士 戸田利雄

東京都港区虎ノ門1-8-10 静光虎ノ門ビル 青木内外特許事務所

代理人弁理士 西山雅也

登録第1687158号実用新案「自走式杭打機」に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。

結論

登録第1687158号実用新案明細書及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。

理由

本件審判請求の要旨は、登録第1687158号実用新案の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであって、具体的には次のとおりに訂正しようとするものである。

(1) 明細書の実用新案登録請求の範囲の項における「第1又は第2の油圧供給機構から供給される圧油で駆動される自走式杭打機において、前記起振機は第1及び第2双方の油圧供給機構から同時に圧油を供給可能」の記載を、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的として、「、それぞれ油圧発生装置とその下流の制御装置との1対から成る、第1及び第2の油圧供給機構から供給される圧油で駆動される自走式杭打機において、第1及び第2の油圧供給機構のそれぞれの制御装置から導出された圧油が起振機に合流供給可能」と訂正する。

(2) 明細書第4頁第8行乃至同頁第9行の「第1のポンプP1を有し、ここで発生した圧油は旋回部4」の記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「ポンプP1から成る第1の油圧発生装置と、その下流に配設したコントロールバルブ群から成る第1の制御装置との1対で構成されており、このポンプP1で発生した圧油は杭打機本体の旋回部4」と訂正する。

(3) 明細書第4頁第13行乃至第14行の「また第2の油圧機構Bは第2のポンプP2を有し、」の記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「また、第2の油圧供給機構Bは、ポンプP2から成る第2の油圧発生装置と、その下流に配設したコントロールバルブ群から成る第2の制御装置との1対で構成されており、」と訂正する。

(4) 明細書第4頁第17行と同頁第18行との間に、明りょうでない記載の釈明を目的として、「ポンプP1を出た圧油は第1の制御装置に入り、直列に配置されたバルブ群のどのコントロールバルブも作動しない場合は、圧油は各コントロールバルブを素通りしてタンクに戻る。

若し、第1番目に位置する旋回用コントロールバルブのみを作動させた場合は、圧油は旋回部へ供給した油を差引いた残量が他のコントロールバルブ群を通過してタンクに戻る。以下同様に、直列バルブ群の各バルブの作動に応じて分流供給される。

そして、同時に同一制御装置内の複数のバルブを作動させた場合には、抵抗の小さいアクチュエータには油が多く流れ、抵抗の大きなアクチュエータへの油量が不足する。」を挿入する。

(5) 明細書第6頁第14行乃至同頁第15行の「双方から起振機へ油圧を供給可能とするように構成」の記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「各制御装置から導出した圧油を起振機に合流形態で供給出来るように」と訂正する。

(6) 明細書第6頁第20行乃至第7頁第2行の「第1の油圧供給機構Aからも起振機10に圧油が供給できるよう構成されている。即ち第1のポンプP1からは切換弁(図示せず)を介して」の記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「第1、第2各油圧供給機構自体は従来のそれと同一の構成ではあるが、第1の油圧供給機構Aのコントロールバルブ群の1つから導出した圧油を第2の油圧供給機構Bのコントロールバルブ群の1つから導出した起振機用の圧油に合流させて起振機に供給出来るようにした。即ち、第1の油圧供給機構Aにあっては、その制御装置は、旋回用、油圧シリンダ14a用、油圧シリンダ18用の各バルブと、走行(左)用と起振機用とに切換え使用する併用バルブとの4個のコントロールバルブを直列に配設した。

そして、走行(左)と起振機とに併用するバルブに関しては、圧油を導出した後で、走行(左)か起振機かに供給するための方向切換弁(図示せず)を配設し、該切換弁を介して」と訂正する。

(7) 明細書第7頁第5行乃至同頁第6行の「この第1のポンプP1から起振機10への油路は、第2のポンプP2から」の記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「この第1のポンプP1と連結した走行(左)・起振機併用バルブから出て、方向切換弁を介して、起振機10に至る油路は、第2のポンプP2と連結した起振機用バルブを出て」と訂正する。

(8) 明細書第7頁第13行の「なっている。」の記載の次に、「即ち、各油圧供給機構にあっては、圧油は、ポンプから制御装置を構成する直列配置の各コントロールバルブを貫流するので、各バルブが同時作用する際には、下流になるほど流量が少なくなり、また、アクチュエータには抵抗が小さいほど油圧が流れ易いので、抵抗の大きなアクチュエータへの流量は少なくなる。しかし、本考案にあっては、第1、第2各制御装置から導出した起振機用の2つの油路の圧油を合流したため、合流点での流路に抵抗が生じ、また、起振機内へは、その定格流量を越える油が流れようとして起振機からも抵抗が生ずる。そして、これら2つの抵抗が起振機用のコントロールバルブに負荷を加え、結局、起振機は負荷の大きな他のアクチュエータと同じ位の抵抗を発現する。

そのため、両制御装置にあっては、起振機用コントロールバルブにだけ油が流れ易いという、従来の不都合な現象が抑制できた。更に、起振機には、両方の油圧供給機構の各1個のコントロールバルブ双方から圧油が供給されるために、油量の供給不足も解消される。」を挿入する。

そこで、上記各訂正事項について検討すると、上記(1)の訂正は、自走式杭打機における油圧供給機構及び起振機への圧油の合流形態を限定するものであって、明らかに実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また上記(2)乃至(4)の訂正は、考案の詳細な説明の項に記載した従来技術における問題点の発生原因に関して明確に説明するためのものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、さらに上記(5)乃至(8)の訂正は、上記実用新案登録請求の範囲の減縮にかかる(1)の訂正に対応して考案の詳細な説明の項の記載を訂正するものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

そして、上記(1)乃至(8)の各訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、また実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、さらに訂正後における実用新案登録請求の範囲に記載されている事項により構成される考案はその出願の際独立して実用新案登録を受けることができるものである。

したがって、本件審判請求にかかる訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、かつ実用新案法第39条第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、また同条第2項及び第3項の規定にも適合するので、これを認めるべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。

平成6年7月28日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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